“認知機能”は健全で知的な社会生活を営むための”知的機能”

「認知機能」は、知的機能、あるいは知ること、また考える方法であって、感じる、想像する、記憶する、推理する、判断する課程を包含する概念とされています。(Churchill’s medical dictionary)

私たちは、五感を通して外部から入ってきた情報から、物事や自分の置かれている状況を認識し、言葉を自由に操って表現したり、お金の計算や管理をしたり、新しい友人の名前やお店の場所を記憶したり、問題解決のために手段を考えたりしながら、日常生活を送っています。

新しく商品を購入するときには、売れ筋や性能、等の情報収集、これまでの使用経験の知見や好みなどと照らし合わせ思考・分析します。

 

そしてショップに行って、店員とやりとりをして、最終的にどうするかの判断をしますが、これらの過程では様々な認知機能を使っているのです。

このような一連の行為をスムーズに行うためには、多くの「認知機能」が関わっていますが、加齢や病気だけでなく、日常における過度なストレス・疲労・睡眠不足、等でも変動します。 認知機能の特性は人それぞれであり、自身の認知機能を知り、強みにすることで「自分らしい暮らし方、働き方を続けられる」ことが可能となります。

「認知機能」は私たちが健全で知的な社会生活を営むための「知的機能」であるともいえます。

(認知機能の見える化研究所)

認知機能低下の原因は認知症だけではない

認知機能は認知症の発症リスクと捉えられている側面がありますが、10月に開催された認知症学会の会長講演では糖尿病性認知症をテーマにされるなど、近年、糖尿病などの生活習慣病と認知機能低下の関連について注目されています。また最近では、がんやCOPD(慢性閉塞性肺疾患)でも認知機能低下が見られることが報告されています。

認知症における認知機能低下は「物忘れ」、つまり記憶力(近時記憶)の低下が主訴となることが多いですが、糖尿病では海馬の萎縮があまり見られず、『注意力の障害が高度であるが、記憶課題の遅延再生の障害が軽度である』とされています。米国で行われた2型糖尿病を対象とした試験では、HbA1c値の上昇とともに認知機能、なかでも前頭葉機能が低下することが示されています。
『COPD(慢性閉塞性肺疾患)の患者さんは酸素マスクをしていても、入院2日目頃からボーッとして明らかに認知機能が落ちている』と医療スタッフの方から聞くことがよくあります。臨床研究でも認知機能低下と低酸素血症との相関の報告が多く、注意力の障害が最も共通してあるそうです。また海外の研究(Singhら)でも『COPD患者から有意に多く非健忘型の軽度認知機能障害(MCI)が発症した』と報告されるなど、記憶障害は軽度でも注意障害などの前頭葉機能に関わる認知機能低下が見られるケースが多いようです。

また、がんの化学療法による記憶力・集中力・作業能力の低下などの軽度な認知機能変化を「ケモブレイン」と言い、がんの診断あるいは治療に関連するこの認知機能障害を総称してCRCI (cancer related cognitive impairment)と呼ばれています。
がん患者におけるCRCIに関する長期的な神経心理学的評価を行った研究によると,がんの治療を受ける前から約30%の患者に,また治療経過中には75%に及ぶ患者に認知機能障害が認められ,このうち35%は治療終了後も数カ月~数年にわたり症状が継続していたことが報告されています。(Janelsins,M.C.et a1.: Semin Oncol,38;431-438,2011)
このように、認知機能は認知症だけでなく、私たちの身近な病気と深く関わっています。かかりつけ医には、病気の種別に関わらず簡単に認知機能をチェックできるものがあればいいですね。

ゼロ次予防から3次予防まで活用できるICTツールの可能性

脳体力トレーナーCogEvo[コグエボ]は、もともとは高次脳機能障害のリハビリテーションで使用されているツールをICT化したもので、認知リハビリテーションと同等の有用性があることが学会等で報告されていますが、その後は高齢者分野を中心に認知機能に関わる様々な医療や生活分野で臨床研究が行われています。
これらの複数の臨床研究において認知機能評価スケールであるMMSE、FABなどの臨床で使用されている認知機能スクリーニング検査との高い相関が報告されています。
また、プレクリニカル期や軽度認知障害の方に対しては、MMSEやFABでは満点を取れるという天井効果が生じていますが、脳体力トレーナーCogEvo[コグエボ]では、認知機能の軽度の変化を捉えることができる可能性があることが示唆されています。
そのほかにも、脳しんとう等のスポーツ障害での復帰プログラム、がん治療における認知機能低下やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)における低酸素状態にともなう認知機能低下の評価にも用いられています。
最近では、健常者を対象とした臨床研究では、認知機能の可視化や経時変化の確認が、認知症の予防行動の発生に寄与していることや、脳体力トレーナーCogEvo[コグエボ]のトレーニング効果として、気分プロフィール、心の健康(mental ealth)、主観的疲労感、等の項目が有意に軽減したことが報告されています。
これらの臨床研究結果から、脳体力トレーナーCogEvo[コグエボ]は、認知症や認知機能低下をともなう疾患における、ゼロ次予防(アウェアネス<気づき>ツール)、一次予防(トレーニングツール)、二次予防(アセスメントツール)、三次予防(リハビリツール)、それぞれのステージで活用することが期待されています。

記憶と注意の欠落とヒューマンエラー

私たちは日々の生活や仕事において目や耳の感覚器から情報を得て、脳の中に蓄積さえた記憶(手続き、経験)
をもとに判断し手や足などの運動器を使って行動をしています。
たとえば車の運転では、信号、標識、走行している他の車、歩行者など、集中すべき対象への注意(持続性注
意)、変化する状況に応じて注意を転換する(転換性注意)、走行中の複数の車の両方に注意を払う(配分性
注意)これらの情報を処理するためには、ワーキングメモリ(作業記憶)と注意制御(注意力)が深くかかわ
っています。
人は外部からの入力情報を受けて、大脳皮質(主に前頭葉)で思考や判断を行いますが、ひとつのことを考えて
いるときは他の情報が入らなくなるため、必要な情報を選択したり、情報に集中したり、不要な膨大な情報を
捨てたりして、情報を絞り込みます。
現場の作業や車の運転をしているときに、物が落ちてきたり、人が飛び出してきたときに、瞬間的に対象物を
注視して、必要な対応をするための判断を行います。
そのときに集中している以外の情報を捨ててしまい、重要なシグナルを見落として事故につながるケースがあります。(「注意の欠落」と呼ばれるヒューマンエラー)
また、思考の過程が終わるまで、情報を一時的に保持すること(能力)を作業記憶(ワーキングメモリ)といいますが、保持できるのは7つ前後で、時間も数十秒程度、しかも他からの情報が入ると消去されてしまいます。

つまり、忙しすぎて情報が過多になると、重要なことを怠って事故につながるケースがあります。(「記憶の
欠落」と呼ばれるヒューマンエラー)
脳体力トレーナーCogEvoに搭載されている、「フラッシュライト」や「視覚探索」などで、作業記憶(ワーキングメモリ)や注意力、処理速度の変動を捉えることで、仕事におけるヒヤリハットなどのヒューマンエラーを事前に防止し、中高年の方々が働き続ける環境改善の一翼を担うことが期待されています。

加齢やストレスにともなう認知機能低下を日々チェックする

わたしたちは仕事や生活の中で、目標や計画を立てたり、判断や推理をしたり、突然の出来事への対応や解決方法を考えたりすることが少なくありません。

これらの一連行為は遂行機能といい、分割注意、複数課題の処理能力、ワーキングメモリ(作業記憶)、などの複数の認知機能が関わっています。

特にワーキングメモリ(作業記憶)は脳のメモ帳ともいわれ、一時的な情報の保持と処理を行うほか、学習・理解・計算などの高次認知機能を支える動的な記憶システムでもあります。

「年のせいか、うっかり用事を忘れてしまった」とか、「話の脈絡がつかなくなった」というのはワーキングメモリが上手く働かなくなったからです。また交渉や売買、契約など複雑な判断と意思決定が求められる仕事においても、ワーキングメモリが機能しないと上手く処理することはできません。

また、ワーキングメモリは容量に厳しい制約があるため、効率的に利用するためには不必要になった情報を消去や更新をすることが必要となり、そこでは注意力が必要不可欠とされています。

私たちは加齢に伴う身体機能の低下は自覚しやすいですが、認知機能に代表される精神的老化にはあまり気付いていません。また加齢だけでなく様々なストレスにより前頭葉機能が影響(ダメージ)を受けることで、認知機能が低下することがわかっています。

これらは仕事などでのヒューマンエラーにつながるため、その日の状況をセルフチェックすることが重要です。

脳体力トレーナーCogEvoに搭載されている、「フラッシュライト」や「視覚探索」などで、ワーキングメモリや注意力、処理速度の変動を捉えることで、仕事におけるヒヤリハットなどのヒューマンエラーを事前に防止し、中高年の方々が働き続ける環境改善の一翼を担うことが期待されています。

認知機能のチェック&トレーニングで生活の質を高める

健康イベントなどで「認知機能チェックしませんか?」と声をかけると、「まだ大丈夫です!」と返事が返ってくることがあります。《認知機能》という言葉が《認知症》と強く結び付けられてしまい、《「認知機能をチェックする」=認知症の疑いがある》と捉えられているようです。

しかし、認知機能の状態は認知症だけでなく、栄養不足や神経疲労、その日の体調によっても変化するものであり、人それぞれが持つ特性でもあります。

「とっさにアイデアが出てこない」「急に何かを頼まれると戸惑う」「集中力が続かず気が散ってしまう」「突然話の内容が変わるとついていけない」「物事の段取りに時間がかかる」ということは私たちの日常生活の中でよくある現象ですが、これら生活上の「困り」の原因にはまさに認知機能が深く関わっています。

人とのコミュニケーションでは《注意機能や記憶機能》が、仕事や自立した生活をする上では《実行機能(遂行機能)》がさらに必要になるなど、社会生活の中では複数の認知機能が相互に影響を及ぼしあい、最終的に一つの表現形である《行動》として表出されます。

例えば、料理を作るためには「冷蔵庫の中身を考えて買い物をする(記憶力)」「メニューを考える(計画力)」「調理をする(注意分割)」「盛り付ける(空間認知)」等の認知機能が関わっており、料理ができないことの原因が何かを考える必要があります。

また、前述の「集中力が続かず気が散ってしまう」という注意力に関する問題行動が起こったとき、この原因は必ずしも注意機能によるものだけではありません。易疲労性や覚醒の低下の結果、自発性や意欲が低下し、結果として注意・集中力も低下していることがあります。

生活の困りがあったときに、どの機能がボトルネックになっているかをチェックして認知機能別のトレーニングをすることが健康な暮らしの対処法となります。

反応時間が遅くなるのは認知機能低下の予兆のひとつ

ヒトは、外部から受ける何かしらの刺激を情報として知覚し、脳内情報処理過程を経た運動指令をもとに行動しますが、この刺激の入力から運動開始まで一連の過程を表す指標として「反応時間」があります。

反応の遅れは高齢者による交通事故の要因のひとつでもあり、運転適性検査では「単純・選択反応検査」が用いられています。高齢者の単純反応速度はやや遅くばらつきが大きく、また選択肢が増えると脳の処理時間が加わり反応時間が遅れるため、高齢期では加齢とともに有意に遅延することが多くの先行研究で報告されています。

また、スポーツにおける脳しんとうの初期徴候や症状の1つとして反応時間が遅いことがあげられています。

  <脳しんとうの一般的な初期的徴候や症状(IRB脳振盪ガイドライン:国際ラグビーボード)>

そのほか、脳出血や脳梗塞といった脳疾患によって反応が鈍くなることがわかっており、反応時間の遅れは脳の機能低下の予兆のひとつであるといえます。

一方で、ミニメンタルステート検査(MMSE)などの認知機能検査では各設問の回答に要する正確な時間を計測することがほとんどありません。検査結果は反応時間の影響を受けないため、反応時間が遅くなっても高得点であれば問題がないと判断されるケースがあります。

脳体力トレーナーCogEvoは、正答率と回答時間によって得点が算出されるため、反応時間の遅れが結果に反映されることから、認知機能の軽微な変化に気づくことが可能になります。日々、簡単・手軽に反応時間を含む認知機能の状態がわかれば、日常生活を維持できるきっかけなるのではないでしょうか。

タッチパネル式のアプリは多面的な認知機能がわかる

「認知機能」は、五感(視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚)、前庭感覚(平衡感覚)、固有受容覚(手足の位置を感じる感覚)などの「感覚」を受容していく機能であるとも定義されています。

この五感の感覚器官で情報を受信し処理する際に、人によっては感覚過敏(過剰に感じる状態)や感覚鈍麻(鈍い状態)であることが最近ポピュラーになってきましたが、固有受容覚も上手に機能していないケースもあります。 固有受容覚は前庭覚とともに身体の機能を把握するために必要な感覚の一つですが、特に手足の動きを把握する上で重要な感覚であり相手の動きを真似したり無意識に(リズミカルに)手足を動かしたりすることに大きな役割を担っています。

私たちが毎日無意識に行っている動作や行為は、感覚が下支えとなっていますが、これらの感覚がうまく統合されていないと、「上手に着替えができない」「運動が苦手」「不器用」など状態が生活の中で見られます。

タッチパネル式の認知機能アプリは基本的に、自分自身で視覚情報(文字や図)と音声情報で理解・認識し(入力)、できるだけ早く考え(情報処理・認知)、画面に手を触れて回答する(出力)という作業を行います。そのため、回答を間違う(もしくは遅い)原因が各タスクの認知機能に問題があるのではなく、各作業に必要な感覚がうまく統合されていない場合があります。

タッチパネル式の認知機能アプリでは、紙ベースの検査などではわからない、視覚情報と聴覚情報と運動機能の協応や感覚・動作の困りを発見するケースもあるため、多面的に認知機能の特性を調べることが可能になります。

認知機能と薬剤師の役割

外来通院患者さんの内服治療において、医師の役割に診断と薬の処方があります。

医師は患者の訴えから病気を推測し、検査を行い最終的な診断に基づいて薬の処方を行います。

しかしながら、服薬指導の現場に携わっている薬剤師の方からは、「実際の医療現場においては、用法通りに服用できていない事の方が多いかもしれない。その要因は、患者自身の判断であったり、知識の問題であったり、金額的な問題であったりするが、認知機能に問題があるケースも多く見受けられる」とお伺いしました。

また、「本来、薬剤師の職能は服薬指導がメインである。その為調剤薬局において、投薬する薬剤師が患者1人1人の認知機能をスクリーニングレベルで把握しておかなければ、医師の処方設計に対して、根拠ある提案が出来ない」と話されました。

こういう想いから、その薬局では脳体力トレーナーCogEvoを始めとする様々なスクリーニングツールを活用して地域の高齢者の認知機能を調査し、それらの有用性を検討・検証されています。

また、「点数などの結果よりも、スクリーニングを行っている患者の様子からその人の認知機能の問題点が見えてくる。だから“本人自らが行えるICTツール”だと観察できるし、聞き手のバイアスもかからないから良い」とのお話もいただきました。

『患者の得点がどれだけであったか』ということより、『患者がどの課題をどのように解決しようとしてどのように誤ったか』ということのほうが、はるかに情報的価値が高いということは海外の研究報告でも指摘されています。(LezakMD,etal, Neuropsychological assessment ,4th edition.OxfordU.P.,NewYork,2006)

「認知機能の見える化」は数値だけでなく、その人の認知機能の特性も可視化されることが重要ではないでしょうか。

認知症予防のためには自身の気づきが必要

昨年12月25日に認知症施策推進のための関係閣僚会議の初会合(第1回認知症施策推進関係閣僚会議)が開かれ、新オレンジプランに代わる大綱を、来年5月を目途に取りまとめることが報じられました。これまでの「共生」を軸としたものから「共生と予防」の二本柱で施策を推進していくようですが、これは「認知症になっても住み慣れた町で自分らしくいつまでも」を堅持しつつも、「認知症にならないために(認知症予防)」に注力していくことを意味しています。

昨今メディア等でも「認知症予防」「認知症対策」という言葉をよく目にしますが、多くの人は認知症予防のために実際に何かをしているというわけではないようです。2017年に生命保険会社が行ったアンケートでは、「認知症の予防に効果的な方法」「認知症の兆候を早期に発見する方法」に関心が高い一方で、認知症への備えについては「必要性は感じているが、準備はしていない」人が半数を超えると報告しています。

では、どのようにすれば人々は認知症予防に積極的に取り組むのでしょうか。 フレイル(虚弱)予防のプロジェクトで有名な柏市の取組みの中で、「フレイルチェックは自分でも簡単に使えて心理的負担のない(楽しさがある)、自分自身の気づきになるものが、意識変容・行動変容につながる」と提言しています。

つまり、医療機関等に受診するのではなく、「日常生活の近い場所で、自分で簡単に操作できて認知機能の変化に気づくことができるもの」が認知症予防において重要ではないでしょうか。