CASE

調剤薬局 いちい薬局

個別特性に基づいた服薬指導

今回はいちい薬局の薬剤師である一井先生にご執筆いただきました

認知機能と服薬指導を考えるようになったきっかけ

調剤薬局の店頭での「あれっ」という気づきからでした。
患者さんに薬の説明をしているときに、会話が成り立たず、おかしいなということがあります。正しい服薬をしているかどうかは、薬剤師には電子薬歴がありますが、患者さんはご本人の記憶だけがたよりです。適切な服用ができているかどうかだけでなく、いつもお札でしか支払われないなど普段の様子からも「何となくおかしい」ことに気づきます。(薬剤師の主観に基づいた認知機能チェック)
この「何となくおかしい」というもどかしい思いを抱えながら、これらのことを主治医に伝えても、認知症薬を使うなどの治療を開始するまでに半年~1年かかっていました。これはいくら薬剤師からの情報提供があっても、患者さんからの訴えもしくは家族からの相談がなければ薬物治療に踏み切れないというのが理由です。

何とかしたいという思いから臨床研究がスタート

認知症の治療は早期治療か寄り添うしかないと思っていましたので、早期発見の手がかりを医師に伝えようとCDT(時計描画テスト)を外来で行なうことをはじめました。そして、その思いが高じて弘前大学大学院に入学し、「在宅訪問での認知機能への取り組み」をテーマに研究をはじめることになり、深浦町で33か所の通いの場で保健師が行っていた認知機能チェックを薬剤師として関わることになりました。
当時は、認知症になる可能性のある方を早く見つけるために、ツールは何でもいいと考えていました。そして、深浦町の生きがい活動に参加する地域住民の高齢者を対象に3つのツール(CDT・ 脳体力トレーナーCogEvo・MMSE)を用いた脳の健康度をチェックするという取組がはじまりました。

3年間の取り組みからわかったこと

これらの取り組みを通じて、認知症に対する理解が深まるとともに、3つのツール(CDT・ 脳体力トレーナーCogEvo・MMSE)のうち脳体力トレーナーCogEvoが一番早く変化を見つけることができること、MMSEは通いの場に自力で来ている人は27点以上の正常範囲内になってしまい、早期発見することが難しいことがわかりました。(このことはGGI論文に掲載)
一方で、認知機能チェックの中で記憶の課題ができない高齢者と多く接する中で、「この人たちはきちんと薬を飲めているのか?」「医師や薬剤師の説明を正しく理解しているのか?」という疑問を日常の外来の場で抱くようになりました。

脳体力トレーナーCogEvo を3年間やってきた経験の中で、最初に落ちてくるのは記憶力(フラッシュライト)なのはもちろんですが、顕著に出てくるのが注意力(視覚探索)と計画力(ルート99)です。特に注意力のタスクである「視覚探索」の第3問「1→あ→2→い→3・・」で極端にできなくなる高齢者が多いことに驚きました。
そして薬の説明の際に、患者さんがうなずかれているのは、薬剤師がわかりやすい説明をしているつもりになっているだけなのではと思うようになり、認知機能に基づいた服薬指導が必要であることを痛感するようになりました。

認知機能に基づいた服薬指導

実施する場合は、「残薬がたくさんある」「家族から様子がおかしい」などの相談や、薬局外来で患者さんの様子を見て「あれっ」と思った時です。いずれにしてもいきなり脳体力トレーナーCogEvoというのではなく、あくまで薬剤師としての役割(服薬指導等)を果たすことを目的とし、在宅の最初の訪問時には必ず実施するようにして、できるときには必ずデータをとって薬歴に記すようにしています。
その際に重要なこととして、自分の接する患者さんの認知機能がどの程度か知っていなければ正しい服薬指導ができないということです。知らないといけないという認識(主観的な観察)がないと適切な服薬指導につながりません。

脳体力トレーナーCogEvoの結果の活用については、2級だから大丈夫、3級は認知症ということではありませんが、まぐれで2級にはならないので、結果が2級以上の人には安心して服薬指導ができると経験的に感じています。結果が3級の場合には半ば懐疑的に接しますが、まず会話中にコミュニケーションエラーが生じることがあるので、正しい服薬指導をしても間違った服薬をする可能性があると考えています。

正しく説明しても患者さんは理解していなかった。その結果が残薬につながっているのです。日頃からこのことを薬歴に記しておくと、薬剤師にとって凄い武器になると思います。
また、正しい服薬ができないと考えられる場合にはご家族に同伴してもらうようにしています。そのときに、なぜ認知機能を把握しないといけないのか、残薬問題やコミュニケーション問題など、服薬指導の現場で起きていることをお伝えし、その説明に脳体力トレーナーCogEvoの結果を使っています。

このように、いちい薬局では薬剤師や職員がこれらのことを実践できるよう、認知機能や脳体力トレーナーCogEvoの使い方などの講習も行っています。2020年4月には青森県深浦町と町立深浦診療所、調剤薬局「いちい薬局」の三者で、認知症を予防するまちづくりに向けて覚書を締結し、認知症の前段階となる「軽度認知障害(MCI)」を早期に発見・治療するための連携体制を構築しています。

いちい薬局

いちい薬局は、ただ、“薬をお渡しするところ”にはなりたくありません。いつも患者さんに寄り添い、地域の皆様の健康を支える存在になりたいと思っています。薬や健康についての相談はもちろんのこと、いつでも気軽に立ち寄れる場所。
地域の皆様にとって、いちい薬局は一番居心地のよい場所、ファーストプレイス。それが私たちの目指すいちい薬局像です。
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